「大規模修繕工事はもっと簡単にできる」~第1回目と2回目、3回目の違い~

講師:松山功一級建築士

 集改センターでは2024年年10 月26 日、第19回新時代のマンションセミナーをオンライン(ZOOM)で開催しました。講師の松山代表理事は、「大規模修繕工事はもっと簡単にできる~第1回目と2回目、3回目の違い~」と題して、管理組合が持っている過去の工事の竣工図書など、価値あるソフト資産を生かし、大規模修繕工事を省力化・効率化する方法を説明しました。以下では当日の講演の要旨をご紹介します。(講演の録画はYouTube公式チャンネルから視聴できます)

 マンションには様々な危機が潜在しています。危険な箇所を見つけて修繕する必要がありますが、自分の住戸とエントランスのことしか知らない人が多いものです。そこで全体を知るにはアンケートを取ったり、皆でマンションを見て回る必要があります。

 鉄筋コンクリートの場合、建物躯体に水を入れないことが大事です。雨ざらしになる部位や、上向きになっている箇所があります。プレキャストコンクリートの場合、継ぎ目が要注意です。色の選定などは複数の案から一つをとることが、従来は定番でした。ところが、アンケートをとることで、不満が残る人もいます。「新築時の色が良かったのに変えられた」といった意見も聞きます。改修の提案と選択は慎重にすべきだと思います。

 第1回目の大規模修繕工事では、劣化調査診断をもとに設計を行います。検討する項目は▽建物の弱点▽どんな工事をするべきか▽長期計画との関連▽進めるのは理事会か専門委員会か―などです。管理組合では事前にマンションの情報を収集・整理します。竣工図やこれまでの工事歴、調査診断報告書、住民アンケートなどの資料を整理します。

 その後、建築士、コンサルタントなどが現場観察を行い、仕様書や図面を作成します。この改修図書一式を管理組合が承認し、工事業者に見積発注します。業者決定は▽見積参加業者の決定▽見積発注▽現場観察▽見積提出▽業者決定―の流れになります。

 大規模修繕工事が終わると、工事業者から「工事完了引渡し図書(竣工図書)」が渡されます。これは厚さ15センチぐらいあるぶ厚い書類の束です。

 これには▽工事完了引渡書▽最終工事内訳書▽最終工事仕様書▽各種保証書▽出荷証明書▽採用色リスト▽下地補修記録図面・数量表▽製作図▽アフターケア要領書▽使用材料リスト・カタログ▽検査記録▽工事写真▽協力業者リスト▽工程会議記録▽実施工程表▽各種アンケート▽工事日報―などが一通り全部入っています。

 さて、ここから本日の本題に入ります。実は、管理組合は価値あるソフト資産を持っています。竣工図面(元図は設計図面)、販売パンフレット(意匠・構造・設備を示す図面)は情報が豊富です。1回目工事の仕様書・明細書、業者選定資料、工事完了引渡し図書(竣工図書)がそれです。

 2回目以降の大規模修繕工事の進め方を検討する際、まず設計監理(施工分離)方式にするか、責任施工方式にするかを決めます。設計監理方式は設計事務所や集改センターなどのコンサルタント、管理会社に設計監理を依頼し、工事だけ施工業者に発注します。責任施工方式は工事業者や管理会社に全部おまかせします。 竣工図書というすごい資産があるのに、1回目と同じ方式で行うと、またイチからやり直しでコンサル料がかかります。1回目と違う設計事務所に発注すると、内訳明細書を拾い直します。 私は常々、本当にそういうやり方をする必要があるのかと感じています。

 最近、多くなっている大手管理会社による責任施工方式(総合請負契約)では、管理会社の工事部が改修専門業者に二次発注することになります。

 この方法は管理組合にとって一番楽なのは確かです。何か問題が起こった時に、全部管理会社におまかせできますし、責任は管理会社が負ってくれます。ただし、工事費は高くつきます。総合請負契約では工事費の15%ぐらい別に払わないといけません。管理組合と管理会社が良好な関係にあれば、これでも良いかとは思います。

 工事会社による責任施工方式は、管理組合が工事会社と直接、工事請負契約を結ぶ方式です。そのアドバイザー兼コーディネーターとして、専門コンサルタントや管理会社、設計事務所が、工事を円滑に進めるためのサポートを行います。

 この方式では、まずアドバイザーを選び、そのあと工事業者を選びます。工事業者の選び方は、あとでまとめますが、まず「前回の工事業者」が第一候補になります。前回の竣工図書をもとに、「今ならいくらでできますか」と一次審査をしてもいいと思います。設計内容も追加したり、変更したり、工事業者から提案してもらうこともあるでしょうが、大体の金額は分かります。管理組合、工事業者、コーディネーターの3者が共同で2回目の工事の仕様をつくり上げていくことができるはずです。

 ただ、この方法はあまり提案されません。設計事務所からすれば「手数料が減るので提案しにくいのではないか」というのが私の推測です。私は、せっかく1回目の工事の価値ある資産が残っているのに、これを使わないのはもったいないと思っています。

 この責任施工方式による工事業者の選定の例を考えてみます。見積依頼業者の選び方は、前回工事の見積依頼業者、またはアドバイザーとの信頼関係が厚い場合はアドバイザーの推薦業者でいいと思います。

 見積依頼の条件は、過去の工事記録・資料(工事完了引渡図書・図面・パンフレットなど)を全部見せます。設計・施工、(工事監理)による請負契約で、工期(工事着工~完了)はお任せとします。工事業者は、常に様々な工事をかかえています。職人、現場監督が一番手配しやすい時期を提案してもらうと、良い工事ができるはずです。

 私は工事業者を決定する際、素人の修繕委員でも理解できるよう、工事内容を分かりやすく説明するレポートを提出してもらっています。

 この方式は4年ほど前の工事で初めて試みました。管理会社だけだと1千万円ほどの借入金が必要だった工事が、予算内で収まりました。先にも申しましたが、この方法は大手設計事務所ではビジネス的に言いづらいところがあります。我々のようなNPOやコンサルタントグループ、これからはマンション管理士が、こういった方法でまとめていくことも大事ではないかと思います。大規模修繕工事の進め方の選択肢として頭に入れていただければ幸いです。